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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)35号 判決 1971年12月07日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鶴田英夫、同岩崎明弘の上告理由について。

原判決の認定したところによれば、上迫組名義で土木請負業を営む上告人は、長崎県北開発振興公社から請け負つた海岸埋立用のぼたの運搬の一部を有限会社渡辺重機など四業者に下請けさせ、渡辺重機からは貨物自動車四両と武田義則ら四名の運転手の派遣を受け、現地における事務所と右運転手らの宿舎を提供し、右運転手らをして上告人自身の被用者といつしよにぼた運搬の業務に従事させていたこと、右下請負業者の作業実施にあたつては、上告人自身または上迫組係員が、下請負業者に配車の指図をするほか、随時ぼたの積込現場や埋立現場においてぼたの積みおろしの状況を見回り、貨物自動車に乗つて運搬途中の監督にあたるなどして、間接的には各下請業者の運転手らに対してもぼた運搬の業務の指揮監督をしていたものであり、他方、渡辺重機の代表者においては、その被用者である武田ら四名の運転手の下請負業務の実施を指揮監督することをせず、業務施行について下請負業者としての独自性に乏しく、結局、上告人は、右運転手らを実質的に自己の被用者と同様に利用し支配していたものであつて、上迫組がその業務の遂行のために渡辺重機から貨物自動車四両と武田ら運転手四名とを賃借したのとほとんど変わらない関係にあつたこと、武田は、右のようにして、事実上上告人の指揮監督のもとにその支配下にあつて、もつぱら、渡辺重機所有の本件加害自動車を運転し、その下請けにかかる右ぼた運搬の業務に継続して従事していたものであり、なお、渡辺重機からは右自動車の運転をまかされていて随時これを使用できる状態にあつたところ、当日、午前八時ごろから開始される作業につくため、朝食をとつたうえでそのままぼたの積込現場に赴くべく、午前七時五〇分ごろ、本件貨物自動車を運転して食堂に行く途中、本件事故を起こしたものであること、以上の事実が認められるというのであつて、右事実の認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができないものではない。そして、右事実関係のもとにおいては、本件事故当時の本件加害自動車の運行は、客観的に見て、上告人の支配のもとにかつ上告人のためになされたものと認めることができる。所論のように、渡辺重機が平素恒常的に上迫組に対し専属的関係に立つものでなく、また、本件事故当時武田が作業現場に赴く途中私用のため寄り道していたものであるとしても、右のように認めることの妨げとなるものではないと解すべきであり、渡辺重機もまた本件加害自動車に対する運行支配を有しかつ運行利益を受けていたからといつて、上告人の責任を否定する理由はないというべきである。したがつて、本件事故につき、上告人が運行供用者としての責任を負うべきものとした原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決の認定・判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷)

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